第11章 おわり
目を開けると、光がゆらゆらと揺れていた。
棺の蓋は少しだけ開いていて、そこから差し込む朝のひかりが、
まるで水の底で見上げた陽射しみたいに、ぼやけていた。
私はいつものように、静かに体を起こした。
寝ぼけたままでも、動きにくいこの空間には慣れていて、
そっと足をずらすようにして、棺の外へ出る。
空気は、ほんの少しだけ甘い匂いがした。
花の香りにも似ていたけれど、どこか……濃くて、湿っていた。
部屋の中はしんとしていて、誰の気配もない。
でも、床に残る足跡と、壁の近くに置かれた折りたたまれた毛布が、
ランダルたちが先に起きていることを教えてくれた。
棺の中を振り返る。
いつもの寝場所は少しだけ歪んでいたような気もしたけれど、
まばたきをすると、ただの狭い空間に戻っていた。
私は顔を洗いに、洗面台へ向かう。
鏡の中の自分は、きちんと髪がまとまっていて、肌もつやつやしていて、
ほんの少し寝癖がついているのも、なんだかおかしかった。
窓の外では、朝日がまぶしく屋敷の天井を照らしていた。
まるで焼けつくような赤さだったけれど、それは多分、朝焼けのせい。
私は、今日もいい天気だと思った。