第10章 ゆめのせかい
目を開けたとき、
すでに棺の蓋は開いていた。
わずかに冷たい空気が、胸元に触れる。
木のにおいと、うっすらとした光。
現実の朝が、静かにそこにあった。
私は音を立てずに体を起こす。
足をゆっくりと外へ出し、床に触れる。
すぐそばに、人の気配。
棺の横で、誰かが動いていた。
ランダルだった。
白い手袋をはめながら、小さな紙を何度も折りたたんでいる。
部屋の中央でしゃがみこみ、くるくると指を動かしていた。
こちらを見ようとはしない。
でも私が起きたことには、きっと、もう気づいていた。
反対側では、セバスチャンが壁にもたれていた。
腕を組み、目を伏せたまま動かない。
でも、眠ってはいない。
私は二人のあいだにいた。
だけど、誰も何も言わなかった。
夢のことは、誰も口にしなかった。
でも胸の奥が、まだほんのりと熱を持っていた。
私は、そっと声を出す。
「……おはよ」
その声が部屋の空気にしずかに溶けていった。
ランダルが、ふいにこちらを振り向いた。
にこりと笑って、ゆるんだ目元のまま、首をかしげる。
「、おはよ~。起きたてでもかわいいね」
その言葉は、朝の光よりもあたたかくて、
すこしだけ夢の続きを引きずっているような声色だった。
セバスチャンも、壁際でぽつりとつぶやいた。
「……おはよう」
短く、静かに。
それだけなのに、ちゃんと受け取ってくれた気がした。
私は何も返さなかったけれど、
その声のなかに、それぞれの“朝”が始まった気配があった。