第10章 ゆめのせかい
「……ねえ、ちゃん」
サトルは、小さく体をこちらへ向けて、机に腕をのせた。
穏やかだけど、何かを渡すような静かな意志がにじんでいた。
「ボク、ほんとうは──君にお願いしたいことがあるんだ」
指先で机の端をなぞる。視線が一瞬だけ、ランダルへ向かう。
「ダルってね……とても特別な子なんだ。
強くて、やさしくて、それでいて、ちょっと繊細で……
本当はたくさん傷ついてるのに、平気なふりをする」
ぽつりと、手を組んで机に置く。
「何も言わないから、大丈夫そうに見えるかもしれない。
でも、あの子は――すごく、疲れてる」
声の調子はやさしかったけれど、切実さがにじんでいた。
「だからね、ちゃん。お願い。
そばにいてあげて。黙って甘えさせてあげて。
なにも言わなくても、頭を撫でるだけでも、癒せることってあるんだ」
少しだけ目を伏せる。
「ボクにはもう、触れられない場所がある。
でも君なら、あの子のそばにいてあげられる。現実で」
サトルの声がほんの少しだけ小さくなる。
「ちゃんだけは、いつだって味方でいてほしい。
信じて、許して、抱きしめてあげて」
ふっと笑う。
「……セバスチャンにも、昔ボクなりにお願いしたことがあったけど……
まあ、うまくはいかなかった」
それだけ言って、話を切り上げるように肩をすくめる。
「約束してって言わない。
でも──ボク、ちゃんとみてるからね」