第10章 ゆめのせかい
そのあとは、ほんとうに、なんでもない話をしていた。
甘いお菓子の話。
ランダルがむかし自分で作った、べたべたのクッキーの話。
セバスチャンがふと口を開いて、ラムネが好きだとつぶやいたこと。
サトルは、どこまでも自然に笑い、
ランダルは、すっかり照れから回復して、またいつもの調子に戻っていた。
私も気づけば、笑っていた。
ただ、ぽつりぽつりと頷くだけだったけれど、それだけで充分だった。
まるで、どこにでもいるクラスメイトたちの、放課後みたいな空気だった。
──そのとき。
チャイムの音が鳴った。
電子音でも、音楽でもない。
ただ、金属の棒を叩いたような、単調で乾いた“キーン”という音。
誰かがどこかで鳴らしたわけではないのに、
教室じゅうに、はっきりと響きわたった。
その音に、私はふと首をかしげた。
でもすぐに、サトルが小さく目を伏せるのが見えた。
笑っていたけれど、ほんのわずかに、遠くを見ているような目だった。
「……そっか。そういう時間かあ」
サトルが、独り言のようにぽつりとこぼす。
誰に向けられた言葉でもなくて、
ただ、自分の中で確かめるような、小さな呟きだった。