第10章 ゆめのせかい
ふわりと沈黙が落ちたあとも、私の中にはまだ、言葉が残っていた。
「……なでてるときの、ランダルの反応が、すき」
私の声に、隣で小さな気配がぴくりと動いた。
「髪とか、背中とかをゆっくりなでると、ちょっとずつ、呼吸がゆるんでくる。
ぴくって肩が揺れたり、手の先をぎゅって丸めたりして──」
ランダルの気配がどんどん固まっていくのが、なんとなく伝わった。
「喉の奥で、小さい音が鳴ることもある。
あと……鼻の息がふわってかかって、くすぐったくなる」
思い出すままに、私はぽつりぽつりと話し続けた。
「ぎゅってすると、ちょっと熱が上がって──
なんだか、あまいにおいがする」
その瞬間──
「~~~~っっっ!!!」
ランダルが、もう限界というように声にならない音を上げた。
顔は真っ赤。
目は泳ぎ、襟元をぐいぐいと引っ張って、シャツの中に逃げ場を探している。
サトルが笑った。
くすくすでも、にやにやでもない、思わず吹き出したような軽やかな笑いだった。
「ダル、大丈夫?酸欠になってない?」
ランダルは何か言いたげだったが、喉の奥で泡のような声を転がしただけで、うまく言葉にならなかった。
「ごめんね、ちゃん。ダル、照れやすいから」
サトルは私に向き直ると、いつものやさしい笑顔を浮かべる。
「ちゃんって……甘いの、好き?」
思いがけない質問に、私は瞬きをした。
でもその問いが、確かにこの場をふわっとやわらかく変えてくれたのを感じた。
机の向こう、セバスチャンが何も言わずにまばたきをする。
ただそこにいるだけなのに、不思議と場がきちんと締まっているようだった。