第10章 ゆめのせかい
「で……どこが、好き?」
サトルの問いに、私はすこしだけ考えた。
そして、ぽつりと、言葉を落とす。
「……なでてくれるところ。髪とか、肩とか、背中とか。
ときどき、そっと爪が触れて、くすぐったくて──ねこに甘えられてるみたい」
隣で、ランダルの肩がぴくんと動いた。
「目が合うと、へんな話を始めるところ。私の耳にしか聞こえないような、小さな声で」
ランダルがそっと目を逸らす。
でも耳の先が、ほんのり赤い。
「危ないときに、どこからでも走ってくるところ。まるで、ずっと見てたみたいに」
私は、思い浮かぶ順に、ぽつりぽつりと並べていく。
「寝るとき、となりにいると、からだがふわふわになる。あたたかくて、でも変な形に眠るから、おもしろい」
ランダルがごそごそと、襟元に指を差し込む。
くっと布を引っ張って、息を逃がすようにのどを動かした。
「あと、着せ替えごっこがすきなところ。自分の趣味が強すぎて、ちょっと変。
でも、わたしのことをすごくきれいにしようとしてくれるから、……おもしろい」
声に起伏はなかったけれど、言葉の奥には、
あたたかいものがふわりとたまっていた。
「うるさくて、話がとんだりするけど……それも、なんか、へんで……好き」
最後のひとことが落ちると、ランダルはもう何も言えなくなっていた。
「……ん゛ぐぅ……」
襟をひっぱったまま固まり、顔を赤らめ、ただ喉の奥で唸る。
サトルはそれを、黙って見ていた。
目を細め、口元の端がぴくりと上がる。
「……なるほど」
その声は小さくて、でもどこか楽しげだった。
そして、何も言わずにランダルにだけ視線を送る。
完全にからかっている目。
ランダルはそれに気づき、じろっと睨み返した。
でも目が合った途端、さらに顔を赤くしてうつむいてしまう。
空気はふんわりと温まり、
どこかくすぐったくて、居心地のいい沈黙が、机の上に落ちた。