第10章 ゆめのせかい
「はじめまして」
差し出された手のひらは、見た目どおり、あたたかかった。
だけどそれ以上に、言葉の奥にある“まっすぐさ”に、どきりとする。
「会えて光栄だよ。……ずっと、名前だけは聞いてたんだ」
その声はさわやかで、礼儀正しかった。
目を見て、ゆっくりと言葉を選ぶように話すその姿は、どこか“紳士”のようでもあった。
「セバスチャンも、元気そうでなにより」
ちらりと横を見て彼が言うと、セバスチャンは少し肩をすくめる。
「元気かどうかは……お前次第だろ」
視線は合わせず、声にひっそりととげが混じっていた。
けれど、それ以上は続かず、空気に小さな波が立つ。
「ま、まぁまぁ、ケンカしないでよ~、ふたりともっ」
ランダルがふいに割って入る。
「ボクのために争わないでってば~。……どっちも大事なんだからさぁ」
わざとらしく明るく言いながら、
その声の奥には、ほんのすこしだけ照れと甘えが混じっていた。
私はその横顔を見て、ちょっとだけ胸がくすぐったくなった。
ランダルは、そっと私の腕をとるような動きをしたけれど、途中でやめた。
そして代わりに、私のすぐそばに立ったまま、満足そうに目を細めた。
サトルは、その空気を一拍だけ見つめてから、小さく笑った。
「……ねえ、せっかくだし、席に座らない?立ち話も落ち着かないしさ」
その言葉は、ごく自然で、けれど明らかに場の空気を整えるために選ばれていた。
「話したいこと、たくさんあるから」