第10章 ゆめのせかい
その“違っているようにも感じた”空気は、形になって目の前に現れた。
廊下の先──どこにも繋がっていない場所に、引き戸が一枚、ぽつんと立っていた。
日本の学校でよく見る、木の格子のある古びた引き戸。
そこだけぽっかりと“別の空間”が埋め込まれたように、不自然に浮かんでいた。
「──ついたね」
ランダルが、楽しそうに言った。
その顔は、まるで遠足の集合場所に着いたかのように、うれしそうだった。
セバスチャンがぴたりと足を止める。
表情は変わらない。でも、その指先がズボンの生地をきゅっとつまんでいた。
私は、その戸に引き寄せられるように目を向けた。
曇りガラスの奥はぼんやりと明るくて、中ははっきり見えない。
ランダルがこちらを見てにこっと笑う。
ふだん通りの笑顔。けれど、それが逆に、少しだけ胸をざわつかせた。
「ね、……入ってみよっか」
そう言って、ランダルが引き戸に手をかけ──
ガラガラガラガラ──ッ……!
古びた木とレールが擦れる、耳障りな騒音が廊下いっぱいに響きわたる。
夢の中で、あまりにも現実的すぎるその音が、
かえって現実味を削ぎ落としていくようだった。
開かれた先には、教室があった。──けれど、さっきのとは違っていた。
床は色の濃い木材、壁の掲示物は色褪せ、
窓にはカーテンがかかり、外の景色は見えない。
空気は少し乾いていて、誰かの気配で満ちていた。
その奥の席に、ひとりの生徒が座っていた。
黒い学ラン。まっすぐな黒髪。
肩には、じっと動かない鳥の影。
顔は見えない。でも、“そこにいる”と、ただそれだけで充分だった。
ランダルが振り返った。
声も笑顔も明るいまま、けれどどこか誇らしげで、うれしそうで──
「この子、ボクの……とっても特別なおともだち」