第10章 ゆめのせかい
ランダルは、ずっとしゃべっていた。
「ねぇねぇ、ってさ、体育の時間とか真面目にやるタイプ?
セバスチャンは絶対サボるでしょ~?ね、そうでしょ?」
「……さあな」
セバスチャンが小さく返すと、ランダルはくすっと笑って、またしゃべり出す。
「でもさ、体育倉庫ってちょっと怖くない?うす暗くてさ。あれ、ホラーの舞台って感じ」
私たちはただ、それを聞いていた。
いつもどおりの、楽しげでせわしないランダルの声。
足元の床はずっと同じ、灰色のタイル。
廊下はまっすぐで、終わりがあるようにも見えなかった。
右手の窓の外に、教室の中が見えた。
──さっきまでいた、はずの教室。
でも、その教室は今や、青く塗られたプールになっていた。
制服のまま泳いでいる誰かの姿が、ふわりと水の中に沈んでいく。
そのすぐあとには、調理台が並ぶ家庭科室が見えた。
湯気が上がる鍋の横で、誰かが白いエプロンを着て、こちらに背を向けていた。
さらに進むと、ブランコと滑り台のある公園。
鉄棒の上にカラスのような影が止まり、じっと動かずこちらを見ている。
それでも、私たちの歩いているここは──
どこまで行っても、ただの廊下だった。
「そうそう、この前ね、シャーペンの芯、めっちゃまとめ買いしちゃって~」
「もったいないよね、でも……なんかさ、忘れちゃいそうじゃん?」
ランダルの話は、まとまりがなくて、でもなぜか耳に心地よかった。
それが、いつもと同じランダルだったから。
だけど、その“いつも”が、今はほんの少しだけ、違っているようにも感じた。