第10章 ゆめのせかい
しばらくのあいだ、三人の間には静かな時間が流れていた。
チョークを使う音も、授業の声もない、けれどそれなりに落ち着いた“日常”。
ランダルはときどき、私とセバスチャンの顔を交互に見ては、何も言わずににこにこしていた。
私たちはその笑顔を、ただ受け止めるだけだった。
──そのとき。
教室の窓の外を、何かがすっと横切った。
鳥のような影。
でも羽ばたく音もなければ、羽もはっきり見えなかった。
私は思わずそちらに目を向けた。
でも、そこにはただの空。木の葉が揺れているだけ。
「……あ」
ランダルが小さく声を漏らす。
その声に、セバスチャンがピクリと反応したのが、横目に見えた。
「そういえばさ、──」
ランダルは私の方を振り向きながら、机の角に両手を置く。
いつもの声なのに、ほんのすこしだけ、熱がこもっていた。
「まだ紹介してなかったよね?ボクの、特別なおともだち」
“紹介”という言葉が、少しだけ響きすぎて聞こえた。
セバスチャンは、何も言わなかった。
でも、その表情は明らかにこわばっていて、机の下で指を組む動きが、少しだけ強くなっていた。
ランダルは、まるでずっとこの時を待っていたかのように、ゆっくりと立ち上がった。