第9章 たべられたひ
パジャマの入った棚をそっと開けて、
私は部屋のすみに置かれた仕切りの裏側へと移動した。
背中のファスナーに手を伸ばす。
けれど――うまく届かない。
何度か試してみたけれど、指先は空を滑るばかりで、
結び目の位置にも、ホックにも、うまく触れられなかった。
私は少しだけ黙って考えたあと、
カーテン越しに、そっと声をかけた。
「……ランダル」
「ん?なに?」
返ってきた声は軽くて、すぐそばにいた。
「……ちょっとだけ、手伝って。背中、うまく外せなくて」
ランダルは「えっ」と一瞬だけ声を跳ねさせたあと、
すぐに「う、うん、わかった」と返事をして、カーテンの向こうへそっと手を伸ばした。
服の背中側を指で探り、
ホックを外す音が、微かにひとつ。
すると、キャミソールの肩紐が、静かに見えた。
「……ここまでで、いいよね?」
そう言うと、ランダルはぱっと手を引っ込めて、
くるりと背を向けた。
「……あとは、自分でできるよね。ね?」
少し早口でそう言いながら、
自分の棺の前まで歩いていく後ろ姿は、どこか耳が赤かった。