第9章 たべられたひ
ランダルの部屋に戻ると、空気はすっかり夜のものになっていた。
薄暗い照明の下、壁際に並んだ棺が静かに佇んでいる。
セバスチャンは何も言わず、自分の棺へと向かい、
手慣れた動作で蓋を開け、中へ身を沈めた。
寝具の音がかすかに鳴って、彼は目を閉じる。
けれど、呼吸はまだ浅く、完全には眠っていないようだった。
ランダルは棺の蓋をすでに開いていて、
中の毛布を整えながら、私の方をちらりと見た。
「うん、準備ばっちり。、こっちおいで~」
軽く身を乗り出すようにして待っていたが――
私は一歩踏み出したところで、足を止める。
「……これ、ちょっと……寝づらい」
声に出すのはためらったけれど、
衣装のきつめの襟元や、背中のリボンが寝返りに邪魔そうで、
毛布にもぐるには不便に感じた。
「……パジャマ、着てもいい?」
小さくそう尋ねると、
ランダルはきょとんと目を瞬かせ、すぐにうんうんとうなずいた。
「いいよいいよっ、着替えてきて。
せっかくのおしゃれだけど、崩しちゃうのももったいないもんね」
その会話を、閉じかけた棺の中から微かに聞いていたのか――
セバスチャンがわずかに息を吐き、寝返りを打った。
それは「見ないように」という合図にも思えた。
彼はもう一度、深く体を横たえると、
静かに目を閉じて、呼吸を落ち着かせていった。
やがて、部屋の中はまた静かになる。