第9章 たべられたひ
受話器を戻したランダルは、
しばらくその場に立ち尽くしていた。
わかりやすく落ち込むわけでもなく、
でも、わずかに眉を下げて、口をへの字に曲げていた。
「……もうちょっとだけ、こうしてたかったのになぁ」
ぽつりとこぼれた声は、
自分に言い聞かせるようでもあり、私に聞かせるようでもあった。
それでも、私の姿を見つめる目は、
まだとろけるように潤んでいた。
「……はぁ、かわいいなぁ……、ほんと、ほんと……かわいい」
小さく溜め息をついたあと、
ランダルはそっと手を伸ばしてくる。
「いこっか。
……でも、ちゃんとボクのそばにいてね」
私は静かにその手を取る。
ランダルの手は、さっきよりも少しだけ力が入っていた。
名残惜しさが、指のあいだから伝わってくるようだった。
ふたり並んで歩き出す。
少し浮いたような足取りで、ランダルは扉の前に立ち、
私のために静かにそれを開ける。
外の空気が、ふわりと流れ込んできた。
私はそのまま、つながれた手に引かれて、
静かにその光の中へと、歩を進めた。