第9章 たべられたひ
「……できた」
ランダルの手が髪からそっと離れた。
私の肩の後ろで、少しだけ息をついた気配。
「よし、完っっ璧……!」
興奮ぎみに声を上げて、ランダルがくるりと私の正面に回り込んでくる。
「ふぅ……っ、うん、うん……!すっごくかわいい。
、ほんとにかわいい……っ」
両手を胸元でぎゅっと握って、
夢でも見ているみたいに、とろけた笑顔でじっと見てくる。
「やっぱり……は、ボクの――」
一拍おいて、言葉が降りてくる。
「……ボクのプリンセス、だね」
甘く、やわらかく、
でもどこか――触れるだけで溶けてしまいそうな、熱のこもった声だった。
私は、そのまま何も言わずに目を合わせた。
――そのとき。
「……パーポポポポポ、パーポポポポポ……」
どこか間の抜けたような、小さな着信音が響く。
部屋の隅に置かれた、レトロなおもちゃのような電話が、ちりちりと震えていた。
ランダルが振り返って受話器を取ると――
『ランダルー、そろそろ降りておいで』
受話器の向こうから、ルーサーの静かな声が響いた。
空気がふわりと、現実に引き戻される。
「……あっ」
ランダルは少しだけ残念そうに目を伏せたあと、
慌てて返事をして、受話器をがちゃんと戻す。
私もほんの少しだけまばたきをして、
今いる場所の足元を、そっと見下ろした。