第9章 たべられたひ
ランダルの部屋は、いつもと同じだった。
だけど、ランダルの空気は、少しだけいつもと違っていた。
「はい、ここ座ってっ。……ん~、どのリボンがいいかなぁ……こっち?でも、あっちのも捨てがたい……!」
髪留めが入った箱をがさがさとかき回しながら、
ランダルはしゃがみこんだ私の後ろにぴたりと陣取った。
「今日は、お姫さまみたいな感じにしよっか。あ、でもお人形っぽいのもいいなぁ……どうしよ……どうしよ……」
ぶつぶつと言いながら、ふわりと私の髪に手を添える。
いつもと同じ、やさしい手のひら。
でも、呼吸がほんの少し荒くて、近い。
「ねぇ、ボクさ、さっきからずっとドキドキしてるの、わかる?あっ、わかんなくていいや、別に……でも、でもさ……」
髪をなでながら、時々小さな独り言みたいに話す。
結ぶ手つきは慣れていて、だけどちょっと手が滑る。
私は静かに、前を見ていた。
されるがままに、少しだけ目を伏せて。
「かわいくするからね。もっともっと、かわいくするから。
……、ボクのいちばんかわいい子だよ」
その言葉が、どこかから降ってくるように耳に入った。