第9章 たべられたひ
衣装を受け取りながら、私はタオルの端を指でつまんで、しばらく迷った。
……まあ、いいか。
そう思った瞬間、私はタオルをふわりと肩から外す。
「ぅ゛あっっっ!!?」
ぴしゃっと音がしたのは、ランダルが反射的に顔を背けた拍子に、足を滑らせたからだった。
「み、見てないからっ!見てないよ!?ちゃんと、ちゃんと目ぇ閉じてるからねっ……うわ」
指の隙間。
その間から、ほんの少しだけ覗いていた目と、唇の端から、ぽとりと垂れた赤い雫。
「あっ……」
ランダルは無意識に、垂れた鼻血を舌でぺろりと舐めとる。
「っ……」
ぐっと顔をそむけ、今度こそ本当に目をつむる。
けれどその顔は真っ赤で、呼吸も少し荒い。
私は何も言わず、下着をつけ、衣装に手を通す。
袖を通して、スカートを落とし、前のボタンを――ぱちり、ぱちり。
……そこまではできた。だけど――
「……うーん」
背中のリボンが、どうしてもうまく結べない。
何度やっても、ゆるかったり、なぜか立て結びになってしまう。
それに、首元の小さな金具が、鏡なしでは見えない位置で噛み合ってくれなかった。
「……ランダル」
そっと呼びかけると、ぴくりと肩が動いた。
「う、うんっ!?え、なに?どうした?まだだった?見てないよ!見てないけど、なにかあった!?」
私は少しだけ後ろを向いて、手で背中を示した。
「ここ、ちょっと……むずかしい」
ランダルは明らかに動揺しながらも、
そろりと近づいてくる。鼻血はそのまま、ぽたぽたと落ちそうになっていた。
「……よし、落ち着けボク。のため。が困ってるから……これは、お手伝い……」
自分に言い聞かせながら、
震える手で、ゆっくりとリボンを結び始める。
「……ああっ、かわいい……っ」
ぼそりと漏れたひとこと。
私の耳に届いたかは、ランダル自身もわかっていないようだった。