第9章 たべられたひ
バスルームの扉が、ぎい、と開いた。
湿った湯気がもわっと廊下に流れ出していく中、
タオルにくるまれた私と、着衣のままのニェンがそろって姿を現した。
ニェンの服はところどころ濡れていて、
袖口やズボンの裾が重たく張りついている。
胸元のシャツも微かに湿って、肌の色がうっすら透けていた。
それでも彼は、気にした様子ひとつ見せず、無言で歩いていた。
その瞬間――
「はああああっっ!?」
廊下の先にいたランダルが、まるで悲鳴のような声をあげた。
「ちょ、ちょっと待って!?なんで一緒に出てくるの!?なにしてたの!?」
目をまんまるにして、両手で荷物(衣装)を取り落としかけながら、
ばたばたとこっちに駆け寄ってくる。
「ま、まさか……っ、の裸、見たの!?触ったの!?ちがうよね!?ねぇ、ちがうって言ってよニェン!!」
ニェンはぴたりと足を止め、濡れた前髪を振り払うこともなく、
ため息すらつかずに一言だけ。
「……マスターに言われたから」
それだけ言って、そっけなく顔をそらす。
私はタオルの端をぎゅっと握りながら、
ほんの少し間をおいてから、ぽつりと口を開いた。
「……ニェンは、上手に洗ってくれたよ」
静かにそう答えただけなのに――
「ぎゃあああああ~~~~~っっ!!」
ランダルはその場で崩れ落ちるようにへたり込んだ。
「ボクですら!!そんなの見たことないのに!!
触ったこともないのにっっ!!なのにニェンが!?え?なにそれ!?えっっ??」
頭を抱えてぐるぐる回り始めた。
「命令って……それ免罪符じゃないでしょ!?いや、そうだけど!でも!でもでもでも!!」
その場で足をばたばたさせながら、大混乱。
私はタオルにくるまりながら、少しだけ湯冷めを感じた。
でも、目の前の騒ぎに、なんだか体が温まりそうだった。