第9章 たべられたひ
バスルームは静かだった。
白いタイルがやけに眩しくて、私は目を細めた。
ニェンは、無言のまま私をそっと下ろす。
でも、足がうまく動かなかった。
足元がしびれていて、立ち上がろうとしただけでふらりと揺れてしまう。
「……」
すぐに支えが入った。
ニェンの手が、肩と腰をしっかり押さえてくる。
ごつごつとした手のひらは、ほんの少しざらついていたけれど、思ったよりもあたたかかった。
私は何も言えず、ただその手に身を任せる。
「チッ……!」
短く、やや大きめの舌打ち。
苛立ちというより、思わず漏れた困惑のようだった。
続けて、ふうっとため息をつく。
でも、顔は見なかった。
そのまま背中に手をまわし、服に指をかける。
「……脱がすぞ、じっとしてろ」
ぶっきらぼうな声だった。
でも、その手つきは案外ていねいだった。
ボタンを外す音。
布が肌をすべる音。
ニェンの指先は急がず、でも無駄もなく、
触れているところには余計な力が入っていなかった。
手のひらが背をなでるたびに、
ざらついた感触が、微かにくすぐったかった。
私はそれを感じながら、何も言わずに立っていた。
立っているというより、支えられていた。
すべてが脱がされると、ニェンはタオルを取り、
くるりと一周、私の身体を巻いてくれる。
「……入れるぞ」
低く、短く。
それだけ言って、私の身体を持ち上げる。
腕の中で身体がふわりと浮き、
浴槽の縁を越えて、ぬるま湯の中へとゆっくり沈んでいった。
水音が小さく鳴った。
私は、ようやく深く息を吐いた。