第9章 きゅう
「今は?」
「今?」
「なりたかったってことは、過去でしょ」
「今はわかんない。探すの、これから」
「そう、じゃあ、俺も手伝う」
「ありがとう。その前に腹ごしらえしないと」
「うん」
そんなことを話していたら、甘い匂いが鼻腔をついて、ちょうどいいと2人で入った茶屋。
そこの果物が入った大福がおいしくて、今度は国広を連れてこようと思った。
「みかん大福って、初めて食べたけど美味しいんだね」
「うん。本当に。…なんていうか国広に似てる」
「主今度は国広びいき?」
「いちご大福は清光かな」
「え。やだよ、かわいくない」
「かわいいじゃん、いちごだし」
「かわいいのはいちごでしょ」
「求肥もかわいくない?」
「それはよくわかんないけど。うまいのは確か。っていうか、みかんが国広なら、いちごはあいつの本歌さまでしょ」
「どっちかって言うと、大福っぽいけどね。果物入ってるとか邪道って思ってそう」
「大福自身が?」
「うん」
「よくわかんないわ。主の感性。まぁいいんじゃないの。俺はいちご飴とかがいい、大福より」
「見た目の話?」
「もちろん。ツヤツヤで、爪紅みたいで可愛いじゃん」
「ふっ、やっぱり清光も私の刀だ」
「感性が独特ってこと?」
「あれ、喜んでない?」
「あの話の流れで喜ぶやついるー?まぁ、でも、この人俺の主だなってさっき同じこと思ったけど」
「わからないって言ったくせに」
「はははっ」
「お土産買って帰ろうか。安定も待ってるし、あの2人も手合わせそろそろ終わったと思うし」
「うん」
お土産用に包んでもらった数箱は、軽々と清光が待ってくれて、一つ持つと言えば、刀剣男士舐めてもらっちゃ困るよと嗜められた。
本丸に帰ると、手合わせを終えた2人が少しソワソワして玄関で出迎えたと思うと、どこに行ってたんだと詰められて、デートしてきたと清光が言うと、少しだけ不貞腐れていた。
お土産だと差し出しても、たいして態度が変わらなかったから、よっぽど出来立てが食べたかったんだと思う。
「次は連れて行くね」
「あぁ」
間髪入れずに答えた国広。
「手合わせ見てたら、お腹すいちゃって」
「そーそ、映画にはポップコーン、野球にはビール、手合わせには大福ってね」
「初めて聞いた」
「意味不明だ」