第9章 きゅう
「それに大福って国広っぽいし」
「主、それ言うの?」
眉を寄せる国広。
「みかん大福、国広に似てて美味しかったよ」
「あんた俺を食うのか?」
「国広は食べないよ、硬そうだし」
「どう考えたって柔らかいだろう。見てみろ、この柔らかいほっぺ」
「主弁解になってないし、国広も食べるんだから、共食いになっちゃう」
「…ふっ、」
黙っていた鶴丸が、私たちのやりとりを見て吹き出す。
知っていた、笑顔だ。
私に向けられたことなかった、私が俯瞰で見ていた、仲間を見守るような慈しむような、優しい顔をしている。
「いや、なに。君たちのやりとりが馬鹿馬鹿しくてな。…ふっ、」
「鶴丸って、綺麗なんだね」
「これが儚げ美人詐欺というやつか」
「酷くないか、君たち」
清光と国広の一言につっかかるように、絡んでいく鶴丸を見ながら、懐かしさを感じる。
清光には、ああ言ったのに。やっぱり、すごく似ているから、同じ顔をしているから、何をしても重ねてしまう。
そして少しだけ、胸が痛くなる。
「そう言えば、さっき見えたけど縁側で三日月と鶯丸がお茶してたよ。みんなで突撃しようよ、これもってさ」
いいことを閃いたと清光が笑って、それに続く2人を見てた。
ねぇ、鶴丸国永。
私を守って折れたあなた。
あなたも、こうして日々を送っていたの?
私がみえないところで、こうして笑って仲間と過ごしていたの?
私のせいで、…。
こんなの発作みたいだ。
「主?」
「あ、うん!今行く」
違うな。
私の中にもう1人棲んでいるみたいだ。
適応しようとする私と、頑なにそれを拒もうとする私。
適応しようとしているのが今世の私で、変わりたくないのはあの頃の私だ。
清光の言うように、縁側では三日月達がお茶をしていて、お土産を出すと鶯丸がとっておきを淹れてくれた。
庭では大きな桜の木が私たちを見ていて、いっそ燃えなかったら、私は今でもこうして過ごす本丸の仲間達を俯瞰で見ていて、鶴丸に構ってもらって、…。
どっちが幸せなんだろう。
ふっと、意識が途切れそうになる。
「主?」
そんな私にいち早く気づいたのは、隣に腰掛けていた国広。
「眠いのではないか、目の下に凄いクマができている」
覗き込んできた、鶯丸。
「寝かせてやれ」