第8章 はち
「…逆じゃないか?」
「逆?」
「あんたは、折れなかった」
「そうだな、くしくも生きてる」
「あんたは更新できないと言ったが、それは違うんじゃないか。確かに、あいつの中にいる鶴丸と、今ここにいるあんたは違うな。
あんたと話すまで、確かに俺は同じだと思っていた。折れて本霊に還って記憶を共有してまたこうして主の元にきて、主は当然鶴丸と本懐を遂げて、幸せになるものだと思っていた。そうあるべきだと」
「だろうな」
「でもわかった。今わかった。
尚更あんたは、主と話すべきだ。そばにいるべきだ」
「俺を見てくれるわけではない奴と?」
「でもあんたで心を乱してるんだぞ。今のあんたで。
あんたが折れかけた重傷だと気づいた時、俺はあいつのあんな顔初めて見たんだ。あんな祈り、初めてみた。
あんたなら、更新できる。生きてないと、思い出は作れない。違うか?」
「…」
「折れた鶴丸がいくら彼女の中で補正されて、美化されていたって、どうやったって、その鶴丸はもう思い出は作れないんだ。日常を作れないんだ。
あんたはどうだ。
同じもの見て、同じものを食べて、同じ時を過ごして、思いを共有できる。それをできるのは、今ここにいる鶴丸国永じゃないか」
「………驚きだな」
「驚き?」
「必死だな、主のために」
「ちが」
「違うのか?じゃあ、俺のためか?」
「それは…」
「ふっ」
「なぜ笑う」
「あまりにも人間臭くて。俺たち、人の身を得たって、どうしたって人間じゃないのにな」
「そうだな」
「嫉妬するのも、慰め合うのも。山姥切のうちに秘めていたものが、案外熱いものだと知ったり、主のことを思って俺に噛みついてきたかと思えば、俺の言葉聞いて、信じて、俺を慰め鼓舞してる。
なるほど、お前は初期刀であるべきだな」
「何が言いたい」
「いや、単純に褒めてるんだよ。将に盲目的かと思えば、案外冷静に物事を見ているんだなと。
初期刀とはつまり、審神者の1番の理解者であり、刀剣男士の先鋒と言うべきか、なんというか、うまく言えないな」
「平安刀の癖に」
「聞き捨てならないな」
「でも、それがあんたなんだろうな」
「他の俺にない個性がこれなんて、ポンコツすぎやしないか?」
「確かに。でも、今のところ俺はあんたのほかの個性を見つけられていないからな」