第8章 はち
「なにかないのか、こう、前髪の角度がいいとか、背格好が他と比べて微妙に高いとか、眼差しがいいとか、儚げ美人とか」
「慣れてくると、厚かましいとかな」
「やかましい」
「ふっ、…まぁでも、この本丸において今、鶴丸国永はあんたしかいないんだ。
俺も、鶴丸国永はあんたしか知らない。だから、せっかくだからあんたの個性も知りたい」
「求婚か?」
「間に合っている」
「俺が振られるのか?」
「俺が将来添い遂げるのは、…彼女だけって決めているんだ。彼女の全てが鶴丸国永で占めているとしても」
「…」
「複雑な顔しているが、俺とあんたのライバルは一緒だと思わないか?あんたの方が有利だぞ、見目はそのまんまなんだから」
「お前いい性格してるな、俺が気にしていたのはそこなのに」
「とにかく、よろしく頼む」
「逃げたな。まぁ、改めてよろしく頼むよ。甲斐甲斐しく、看病してくれたみたいだしな」
「うちの末っ子だしな」
「歳は俺の方が上だぞ」
「経験値は俺の方がある」
「お前ってやつは」
「それから、ここの奴らとも、打ち解けていってほしいと思う」
「まぁ、徐々にな」
「あぁ」
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「それで?あいつら仲良く手合わせ?」
「うん。まぁ、なんていうか、私も国広に甘えっぱなしだったし、国広も過保護だったし」
「ふーん、じゃあ俺も入る余地ある?」
「なんの話?」
「さぁね」
「男心がわからないのか、刀心がわからないのか」
「主は鈍感だからね」
鶴丸が手入れ部屋を出て、はや1週間。
休養のための謹慎が明けると、鈍った身体を動かすから付き合ってほしいと、鶴丸が、近侍である国広を誘いにきたのは1時間以上前。
「今日は書類仕事も僅かだし、いいよって言ったけど、休憩も挟んでるからいいけど、飽きないのかな。ずっとしてるよあの2人」
「何よ、主ヤキモチ?」
「そうかも。国広は私の初期刀なのに」
「そっちなんだ」
「ん?」
「主の片想い相手、鶴丸でしょう」
「んー、なんかね。国広と話してる鶴丸見たら、なんか違うなって」
「え?」
「悪い意味じゃなくて、ここ1週間であの2人、グッと仲良くなったんだよね。そしたらさ、私が知ってると思ってた鶴丸よりずっと幼くて、明るくて、なんていうか、なんていうか」