第8章 はち
主が寝たのを確認して、俺は手入れ部屋に向かった。
ノックもせずに入ったのは、きっと目が覚めていないだろうと思ったからだ。
だから驚いた。
窓から溢れる月明かりに照らされ、金色の瞳が俺をとらえたこと。
「…あ、」
「よう」
「あぁ」
「ありがとな、乱に聞いたよ」
「…」
「コレも、それから、こっちも」
額に置かれたタオルと、懐から出した御守り。
「…あぁ」
「なぁ、どうしてこっちだったんだい?」
「こっちだったとは?」
「貸してもらったものにとやかく言うのは野暮かもしれないが、君の性格上、主様を思って渡すなら極みの方のお守りかと思ったんだ」
「あぁ、…そのことか」
「それに、この青い御守りなら予備だってあっただろう?わざわざ君の宝物を俺に預けたのはどうしてだい?」
見透かされるような視線がうるさい。
「……話すのは得意じゃないんだがな。もちろん俺も極みのお守りはある。でも使ったことはないがな」
「それも何と言うか、君らしい…のかもしれないな」
「あぁ」
「それだけかい?」
「あんたは、御守りの効果どこまで知ってる?」
「種類」
「じゃあ、今度万屋にでも行ってみればいい、わかるはずだ」
「それがわかったら、君の気持ちもわかるのかい?」
「………お前に貸した青いものは、御守りの中でも1番効果が低いんだ。最低限、折れずに本丸まで帰ることができると言う効果しかない。
桃や、極と違ってな」
「あぁ」
「正直、主の気持ちを弄ぶようなあんたにお灸を据えるつもりだったんだ」
「痛みをもって味わえってか」
「あぁ。…でも、なんていうか、主の顔が浮かんだんだ。…無情になりきれなくて、中途半端なことをしたと自分でも思う」
「中途半端なのかい?」
「この御守りには特別加護がかけられているんだ。俺が初陣のとき渡されたもので、まだ本丸にも金がなくてな。
俺は経験値だけは他の奴らよりあるから、極みの御守りも最後でいいって言ったんだ」
「あぁ」
「お前もどうせみただろ、この中身」
「あぁ」
「手紙は主がそれぞれの刀にそれぞれの言葉で書いている。もちろん俺のにも、書いて入れてくれた。極みのにも入ってる。
でも、その青い御守りの方は手紙を書いた墨から違うんだ。主の一部が使われている」
怪訝そうな顔をした鶴丸。