第8章 はち
「俺たちは、本霊に取り込まれると記憶を共有するだろう」
「そうなんだ、ボクはそんな記憶ないな」
「じゃあきっと、まだ折れたことがないんだ」
「そうかもしれない」
「いいことだ。きっと……それでまぁ、また魂を分けられて循環するんだ。空っぽの似せた刀に新しい魂いれて、審神者に顕現される日を待つ。…痛みで記憶を失って、その場面を見た。走馬灯かもしれない。
少しだけ思い出した、その表現が正しいのかもわからないが」
「うん」
「君のはなんて書いてあるのか、俺が渡されるはずだったものはなんて書いてあったのか」
「あぁ、それは初陣の時に渡される使い回しだから多分書いてないよ」
「え?」
「僕たちはこっちのあるし」
取り出した極みの御守り。
「みんなこっちの持ってるから、誉とったお祝いに貰えるの」
「それまではこっちのピンクのを使うんだけど」
「じゃあ、なぜ」
「うちの本丸は基本重傷になるまで進軍はしないから、ボクはこの青い方でいいと思うんだけどね。
青いのは臨時の時と、山姥切さんのそれだけなの。山姥切さんももちろん極も渡されてると思うけど、貧乏性だからね。初期刀故のものなのか、ただものを大切にしているだけなのか」
「極」
「鶴丸さんも、誉とったら渡されるかもね」
「そうか、…」
「って、御守りの話はまぁいいとして。お腹空かない?加州さんが持ってきてくれたの」
「あぁ、もらおう」
「じゃあ、温め直してくるよ。待ってて」
「悪いな」
「どういたしまして」
ボクは、お盆をもって立ち上がる。
ボクは一つ、嘘をついた。
鶴丸さんに。
ボクも一度御守りの中身を見たことがある。
刀なのに、出陣をあまりさせてもらえなかった頃、ボクの弱さが原因かと落ち込んだことがあった、その時だ。
少し早めに顕現していたいち兄に、諭され、主には秘密だと言って御守りの中身を見せてくれた。
小さく畳まれた手紙、あるじさんの筆跡、込められた想い。
ボクが大切に思われていたこと、その時ようやくちゃんとわかった。
本丸の一振り一振りに、こうして想いを込めているんだといち兄は言っていた。
もったいなくて、ボクは開けられなかった。
だから今でも、ボクの御守りのなかの手紙にはなんて書いてあるのか知らない。
中身を見るなんて野暮なことしない。