第8章 はち
「あぁ」
「わかってないでしょ。それがわかるのは、僕たちの仲間じゃない。
どんなレベルの敵が、どんな場所にいるかわかるのは、時間遡行軍自身でしょ。今回は偶然、山姥切さんの思いに沿った形になっちゃったけど」
乱の青い瞳が俺をしっかりととらえた頃、また戸を叩く音がした。
返事をする前に障子が開く。
「2人とも、白熱して話すのはいいけど、それあんまり聞かれちゃまずいんじゃないの」
そう言いながら湯気の立つ器をお盆にのせて入ってきたのは、加州清光。
「加州さん、聞いてたの?」
「違うよ、聞こえたの。乱はご飯食べたよね」
「うん。山姥切さんと交代しにきたんだけど」
「白熱した会話してたら、ミイラ取りがミイラになっちゃったってことね。とにかく国広、お腹が空いてるから余計なことぐじぐじ考えちゃうんだよ、まずは飯。話はそれから。
乱悪いけどあとよろしく、俺はコイツ連れてくから」
「うん、わかった」
俺は引き摺られたまま、厨に連れて行かれる。
「俺はしっかりしろって言ったんだからね」
何のためか、念を押すようにそう言われた。
「先程も言われた気がするな」
「言ったね。だってそんなんじゃ、近侍なんて務まらないよ、俺がその席変わってもいいの」
「…」
「やりたい奴は多いよ」
「…」
「凄い顔してる。国広が山姥切を名乗る誇りと同じくらい、主の近侍であることもまた、国広にとって誇りなんでしょ。
なら、足元掬われるような隙作るなよな。主が本当に泣ける場所は、今んところ、国広がいるところなんだから」
「あぁ…」
「わかったら飯。腹が減っては、近侍はできぬ。さっさと食べて、主のフォローしに行きな」
「あぁ」
ーーーー
ーー
山姥切さんが加州さんに引きづられて言った後、残されたボクはチラッと鶴丸さんを盗み見る。
「で、いつまで寝たふり続けてるの」
そういうと、ゆっくり伏せられたまつ毛が動く。
「………さすが、短刀というべきか。気づいてたのか」
「うん。山姥切さんは気づいてなかったみたいだけどね」
「あんなに耳元で大きな声で話されたら流石に」
「ボクがきた頃には、起きてたでしょ。大方、気まずくて寝たふりを続けたら、起きるタイミングを逃したみたいな?」
「敵わないな」
「ふふ」