第7章 なな
審神者が出て行ってすぐそう声をかければ、大きくため息が聞こえて俺はそちらに目をやる。
「…なにも。ただどうしてそう邪険にするんだ」
「俺は君と違って、あの審神者に選ばれたとかそういう云われはないからな」
「そうだな、あんたがあいつを選んだんだ」
本気で言っているのかと眉を寄せる。
「それなのに、あんたが突き放しては、あいつが可哀想だ」
「…きみとは分かり合えない」
「俺はあんたが、そんな風な奴だとは思わなかった」
「俺はこんな奴だよ、馴染みのないきみは知らないだろうけどな。俺もきみのことはよく知らない」
そう話を終えて、中断していた片付けをまた始める。
「宴会を抜け出したり、つれない態度を取ったり、あんたって奴は」
「なぁ、山姥切国広」
「…なんだ」
「お前に聞きたいんだが、俺たちの使命はなんだ?
審神者のご機嫌を取ることか?」
俺の言葉に今度は山姥切が眉を寄せた。
「そうじゃないよな、俺たちの使命は歴史を守ることだ。そのために顕現された。それ以上でも以下でもない。
それなのに、この本丸は浮かれすぎている。
戦場にこれから赴くための支度をする場所が、こんなに穏やかであってはいけない。不謹慎だ」
己の口から出た言葉に、俺自身が驚いた。
「俺が言ったこと、間違っているか?」
酷い、言い訳だ。
「…あんたが言っているのも、一理あるだろうな。だが、俺はそうは思わない。
戦のために存在していた俺たちが、人の身を得た理由がそれだけなわけがない」
「理想論か?」
「…あんた、何に怯えているんだ」
「怯えている?俺が」
「…………話すぎたな。短刀たちの声が聞こえる。他の奴らもおきてくるだろうな。また話そう」
勝手に話を終えて、勝手に片付けを手伝いはじめた山姥切に俺はもう何も言わなかった。
俺自身わからなかった、この焦燥感の意味。
山姥切が俺に対して、怯えを抱えているように見えるというのならきっとその焦燥感からくるものだろうと予測をつける。
「……さん、鶴さん!」
「光坊」
「片付けありがとう、助かったよ」
「…いや」
「でも驚いたよ、気がついたら主役がいないんだもの。お酒、口に合わなかったかい?」
「いいや、眠かっただけだ」
「そう、それならよかった。よく眠れた?」
「あぁ」