第7章 なな
『不器用なくせに、繕うのが上手な貴方が私だけに見せる弱さが、寂しくて、優しくて、美しかった』
「…」
『貴方の居場所になりたかった。貴方に褒められたかった、もう一度』
知っているようで知らないその精が、俺に止まり羽を休ませる。
重みも感じない。
ただ、暖かさがある。
「…俺に、想いを寄せていたのか?」
手で触れれば壊れてしまいそうだと思いながら、そっと触れる。
そうせずにはいられなかった。
『貴方が私の全てだったってだけ。私の物語は貴方がくれたの。貴方が私を見つけて、運んでくれて、育ててくれなかったら咲くこともできずに、存在した意味すらわからずに、ただ枯れて終わってた。
私が産まれることもなかったでしょうね』
触れている方の手のひらの、俺の人差し指に両手をかけて甘えるように擦り寄る。
『好きとか嫌いとか、愛しいとか、人は簡単に言葉にできていいわね。
私は、そんなことできないわ。言葉にできないの。一言じゃ言い表せないのよ、貴方への想いは』
抱きしめるように、そっと手のひらで包み込む。
潰れないように、優しく。
「………そうか」
『同情のつもり?あなたの感情を読むのは得意よ、黙ってずっと貴方の話を聞いていたんだもの。貴方の表情も感情も見逃さないようにしてたんだもの』
「参ったな」
『同情ならいらないわよ』
「手厳しいな」
そういいながら、俺の手のひらを押し戻したりせず、その身で受け止めている。
「…だが、同情だけではないさ。…すまない、俺も人の身を得てそう長くないんでな。うまく言葉にできない」
ガラス玉のような、透き通った大きな目をぱちくりと動かす。
「…そうか、でも、あえて言葉にするなら。俺はお前に会うために顕現したんだろうな」
俺がそう言うと、モゾモゾと体を動かし顔を隠す。
そのあとすぐ感じた暖かなものが、涙だと気づく。
「どうしたんだよ」
『…………それでも、貴方は私を』
「きみを?」
………なんて言いかけたんだ?
瞼を刺すような、木漏れ日で俺は目を覚ました。
「朝……そうか、夢か。変な夢だな……お前が見せたのか?」
そう木に問いかけても答えるわけもない。
温もりを思い出すように触れたほうの手のひらをさの木漏れ日にかかげる。