第7章 なな
「鶴さん、こっちが厠であそこに見えるのが厩舎だ。でー、」
俺が顕現した時、当時顕現できる俺以外の刀は全振り揃っていたらしい。
「鶴さん?」
「ん?」
「具合でも悪いのか??」
「いや。随分と穏やかな場所だと思ってな」
「あぁ。たしかに。主が穏やかだから尚更じゃねーかなぁ」
かえって鳥肌が立ちそうなくらいの、穏やかな空気。
「どんな御仁なんだい?うちの主殿は」
「どんなって…んー」
「悩むのか?」
「鶴さんはどう感じたんだよ」
「え?」
「初対面の印象って結構あってたりするだろ?」
貞坊に言われて、俺は頭を抱える。
「ここの本丸の空気は穏やかすぎる。平和ボケしてるんじゃないかと思うくらいに。それでいて、庭や室内の隅々まで掃除が行き届いていて、どこにいても他のやつらの声がする。楽しそうな、仲間ごっこ。
おまけに俺に片想いだろ?殊勝なことだな、健気すぎて胸焼けがする」
こんなことを言っても、貞坊は怒らないだろうと何故か確信していた。
「そうだな、たしかに。…でも、それ主に言ってやるなよ」
怒ってはいないが、少し傷付いたような表情をしている。
「すまない、正直に言いすぎた」
「いいんだ、聞いたのは俺だし。みんな鶴さんが来るのを楽しみにしていたんだ。
主の片想いもあるけど、それを抜きにしてもさ」
「俺たち刀剣男士は主の想いで顕現し、形を成す」
「…あぁ。つまり、鶴さんに会いたかった気持ちも、主の想いを受け取っていたからだろって、ことか」
「そう言うことさ」
「今のあんたに主は勿体無いよ」
貞坊がそんなことを言うなんて意外で俺は呆気にとられた。
「そうかい」
「あぁ。でもまぁ、確かにそれも少しあるのかもしれないな。鶴さんの言うことはいつでも少し正しかった」
「少しか?」
「うん」
その言葉の意味を俺ははっきりと理解したわけじゃない。
でもきっと貞坊が言うんだから、そうなんだろう。
「貞坊は知ってるのかい?」
「なにを?」
「主が抱く俺への想いのわけを」
「あぁー。いや、詳しく聞いた事はないな、あまり気にした事もなかったし。
ここの古参のやつらなら知ってるんじゃないか?加州とか、小夜とか?あと初期刀の山姥切国広とか」
「なるほどな」
「まぁ、見た目じゃねぇか?人間だし」