第6章 ろく
他のみんなは遠くで作業していたり、身内で盛り上がっていて、清光と安定が厨へと向かったのを見届けた後、国広は何も言わずに私の隣に座った。
「…疲れちゃった」
聞こえるか、聞こえないかの声。
試したわけじゃない、ため息と一緒に溢れた本心。
スッと差し出してきたのは、ほかほかの焼き芋。
国広の分かと結びつくまでタイムラグがあったのは、その行為の意味を考えてしまったからか。
「あるよ、私の分」
「知ってる、今2人が厨に持って行ったな」
「国広の分なくなっちゃう」
「そうだな。だが、もちろん、あんたのを分けてもらうつもりだから心配は無用だ」
「…ふっ、なんだトッピングしたの国広も食べたかったんじゃん」
「冗談だ。余計なことを考えるのは、腹が減っているからだと教えたのはあんただろ」
「そんなこと、言ったかな」
「片想いってやつ、案外他の刀も知ってるのか?」
「鶴丸に会いたかったってことだけ。ここの本丸や鶴丸との昔話は、国広しか知らない」
「そうか」
国広は少しだけ嬉しそうで、それがどうしてなのかは分からなかった。
「国広」
「なんだ」
「不毛かな」
「今更だろう」
「そんなことないよ、とか言えないの」
「俺はあんたに嘘はつけない」
「辛辣」
「だが、そばにいることはできる」
「じゃあ、そばにいて。ずっといて。戦いも、内番も、身内といることもしないで、私とだけいて。
歴史なんか守らなくていい、ただそばにいて」
「あんたが望むなら、そうするさ」
「馬鹿、…」
「ふっ、」
「馬鹿ね。迷わず切ろうとしなきゃ」
「俺に切られたかったのか?」
「…そうじゃないけど、約束を違えようとしたのに」
「違えようとしたわけじゃないだろ、あんたは傷ついたんだ」
「…」
「真実を知って、それが傷になった。ただそれだけだろう。それなら俺は、その傷を深くするんじゃなく、手当てするだけだ」
「…国広、できるの?薬研みたいに」
「あんたに対しての処置は誰よりも上手いと自負している」
「たしかに」
そばにある肩にそっと顔を寄せれば、嫌がりもせずに当然のようにさりげなく体ごと抱き寄せられる。
「わかっていたんだろ」
「ん、わかってた」
「今も、分かってるんだろ」
「ん。わかってる」
「俺がいうことはもうないな」