第6章 ろく
この本丸に来て、何度顕現の儀式をして来たかしら?
数えきれないほど行っても、鍛刀できる貴方以外の刀が揃っても、全然顔を見せてくれない。
伊達の刀だって、三条の刀だって、もうとっくに姿を見せているのに。
鶯だって三日月だってもうとっくにいるのに。
そうそう、特命調査だって任されたのよ。
天保江戸への道はまだ開かれていないけど、それでも5振りの刀が来てくれたの。
ねぇ。全く、どれだけ焦らすの?
もうそろそろ、貴方の声も言葉も姿も忘れちゃうわ。
演練や万屋街、政府に呼ばれた時も他の本丸に貴方はいるのに。
「清光、安定。言い争いもいいが、主からこれで焼き芋でもしないかと提案を受けたところなんだが」
「焼き芋?!」
「太るぞ、清光」
「何を?!じゃあお前食わないのかよ」
「僕は食べた後に鍛錬するもん」
「上等だコラ!」
「ふ、…ふふっ、本当に仲がいいのね」
「まぁ、それなりに」
「うん」
「さ、お前達。主の笑顔に見惚れてないで、芋を取ってきてくれないか。俺は、もう少しここを掃いてからいく」
「うん、じゃあ主俺たちと一緒に行こう!」
両手に花。左右から腕を取られる。
「国広」
「あぁ、後でな」
私が2人に連れられるのを、ノールックで見送って自分は掃き掃除に戻る。
「ねぇねぇ、主」
「ん?」
「やっぱ、初期刀って違うの?」
「安定」
「清光、俺は主に聞いてるの」
「それってどういう意味?」
「そのまんまの意味。主、国広の前だとなんていうか年相応に見えるっていうか」
年相応、言われてから自覚した。
国広の前だと、繕わずにいられることに。
「そんなことないわよ」
「そう言うとこも」
「ん?」
「話し方だよ」
「…これは癖みたいなものよ」
「癖?」
「ええ。…だって、何もかも変わってしまったら、気付かれないかもしれないじゃない」
「あぁ、片想いの話?」
「主、片想いなの?」
「あれ、安定知らないっけ。主、鶴丸に会いたいんだって」
「あぁ。まぁたしかに、片思いか」
「そんな片思い連呼しなくたっていいじゃない」
「いいでしょ、僕達のヤキモチだし。それにあながち間違いじゃないよ、僕達が呼ばれるのは、その本丸に必要があってだから。
向こうがそう感じないなら、片想いじゃないか」