第6章 ろく
私知らなかったわ。
見ていた筈なのに。
お花見の時、私の根元に大きなレジャーシートを広げて、誰かが作ったお弁当楽しそうに食べる姿。
お酒を飲む姿。
「主、冷めちゃうよ」
「どうかしたのか?」
「…」
「何でもないの。みんなと食べることができて、とても嬉しいの。みんなで食べると美味しいって、あれ本当ね。
何倍も何倍も美味しく感じる」
「そっか。まぁ確かに、俺も食事初めてだけど、みんなで食べるのはいいね」
「そうでしょう?」
「…アイツらがいたらもっと」
「僕も兄様達と」
「大丈夫だ」
「そうよ、大丈夫よ。どのくらいかかるか分からないけれど、いつか絶対一緒に食事できるわ。
そのためにも、無茶なことは絶対にしないで」
「無茶なこと?」
「例えば、重傷になっても戦うとかそういうこと。私の中の清光も小夜も…それから国広も。貴方達だけだから、分霊だとしても」
「主」
「いい?いつか、貴方達の大切なモノがこの本丸に来てくれたときも、私にとっての代わりはいないってことちゃんと理解して説明してあげて」
「分かりました」
「うん、俺も分かった」
「あぁ」
素直な子達。
何だかとても愛おしくて堪らない。
人として持ち合わせた感情の使い道が、見えてきた気がする。
「さぁ、食べちゃいましょう。って、先程と逆ね。ご飯を食べたら、私は鍛刀と書類の片付け、それから掃除をするわ。
みんなはどうする?」
「主が決めるんじゃないの?」
清光の一言にうなづく小夜と国広。
「そうなの?」
「多分」
「そうなのね…でも」
国広の姿が浮かぶ。
「言いにくいか。昨日あんなこともあったしな」
「…」
かちゃっと音がする。
国広が丁寧な仕草で箸を置く。
「俺たちは刀だ。…戦うために、護るためにあるんだ」
言い聞かせるような口調に、反抗したくなる。
正しいと分かっていても。
消えてしまった灯火を、私は何度も目の当たりにしている。
「少しでも怪我をしたら戻ってきて。どんな時も、必要以上に怪我を負わないで。
こんなこと言ったら、私は審神者失格かもしれない。
でも、こうして少しでも一緒に過ごしたら、もう家族なの。もう独りは嫌。
…だから、どうかお願いします」
「…主がそう願うなら」
「うん。俺も気をつける」