第5章 ご
照れるくらいなら、言わなきゃいいのに。
少し早くなった国広の心臓の音に、ホッとする。
鼓動が、触れてる部分の熱がちゃんと温かい。
「約束」
「あぁ」
ぎゅっと、甘えるように頭を寄せると、国広も同じように寄り添ってくれる。
その優しさが、染みていく。
「チュートリアル、終わらせないと」
「そうだな」
離れた熱が、少し寂しい。
「国広」
「なんだ」
「今の話、仲間が増えても誰にも言わないで」
「アンタがそう言うなら」
「うん」
立ち上がった国広が、先程みたいに私に手を差し出す。
ぐいっと持ち上げられて、立ち上がるとそのはずみで国広のフードが取れた。
日差しに照らされたその全てが美しくて、息を呑んだ。
国広が動かないから、背伸びをしてそっとそれを被せる。
誰も見てないのに、見せるのが勿体無いと傲慢なことを思った。
「…アンタ、変な奴だな」
「え?」
「綺麗とか言わない」
「あ、…うん。綺麗」
「綺麗とか言うな」
「どっちよ」
「…」
「綺麗って、言われたくないんでしょ。白状するなら、誰にも見せたくないって思うくらい、独り占めしたいって思うくらい、綺麗だった。
へへっ、だいぶ傲慢で自分でも驚いちゃった」
私がそう言うと、癖なのかまたフードを直してた。
「ところで、結論を聞いてなかったな」
「結論?」
「アンタの過去は分かった。動揺したのは、アンタがいた場所に違うモノがあったからか?」
「あぁ、うん」
「切るか?」
「え?」
「俺は化け物切りだからな」
「いい。大丈夫、切らなくていい。…お世話して、今度は私も見る側でいい。国広がいるから。だから、春になったら、一緒に桜見よ」
「あぁ」
「…よし、仕事しよっか」
…なんて。
私、授業で散々習ったのにさ。
全部忘れたわけじゃなかったのにさ。
もっと色々対策できたかもしれないのに。
国広に話を聞いてもらえて、今までのことが話したら少しスッキリして、少し浮かれていたのかもしれないわ。
初めての単騎出陣は、目も当てられない程だった。
…あぁ、こんなことが続くのか。
強くなっても、強くなっても。
きっと。
ずっと。
遡行軍の思いが、分からないわけではない。
でも。
この戦いの意味が人の心なら。