第5章 ご
「鶴丸国永の、加護だったと今は思うわ。ボロボロになりながら、すごく綺麗なモノだったのに」
大粒の涙が落ちて、服を濡らす。
「似合わないのよ、白以外。赤なんて似合わないのよ、茶色も黒も、…見たくなかった。
無責任だと思わない?私を連れてきたのに、私を置いて行くのよ。
ムカつくわ、生意気よ。
私、独りになったのよ。そのあと、独りで咲き続けた」
八つ当たりのように言葉をぶつけても、国広は私の言葉を待っていてくれた。
「鶴丸国永はね、私の根元で灰になったの。消える様を私に見せつけて。ボロボロなのに、安心させるように笑って。
……だから、何回も咲いたの。何回も何回もね。一度見つけてくれたから、私が独りでも頑張っていたら、会えると思った。
会いにきてくれると思った。でも、来てくれなかった」
「…」
「どんどん大きくなって、花以外醜くなって。彼は気づいてくれないかもしれないって思ったときもあったけれど、彼が喜んだ、私の美しさがあれば大丈夫。気付いてくれるはずだって。
毎日春なら良いのにって思いながら、雨を偲んで風に負けずに、夏の焼けるような暑さにも、秋の夜の長さにも、冬の凍るような寒さにも耐えた。
どんなことも、彼が目の前で消えた悔しさに比べたら、優しすぎるくらいだった」
国広の顔はフードのせいで見えなくて、ちょうどよかった。
「頑張ってたら、ある時私を見つけてくれたモノがいた。独りになって久しくて、話しかけたわ。
独りが寂しいと言ったら、独りじゃなくなるって言ったの。優しくて、信じたわ。一瞬だったけれど、私はそのモノがいいモノであることをすぐにわかったの」
「…」
「でもね、モノと人間は違うの。そのモノが来た後、人間が大勢来たわ。私見つけて、化け物と言ったわ。おかしいと思わない?私は綺麗に咲けるのに。まだまだ咲けたのに。
とっても立派な幹で、花の時期じゃなくても、優しかった彼のとまり木くらいには、なれたかもしれないのに。
ねぇ国広、残穢って何?私はただ、咲いていたかっただけよ?…私の言葉を聞かないくせに、一方的に決めつけて火を放ったの。
全部焼けたわ、知ってる?桜って燃えにくいのよ。…それなのに、その熱に、夏の暑さと比べ物にならない温度に、もう咲けないってわかった。見つけてもらえないってわかった」
国広、何か言ってよ。
