第5章 ご
「わたしは、よ、よろしく。国広」
国広はこれでもかってほど、目を見開いたわ。
「主、それは」
「真名よ。授業ではその意味も習ったわ、自己責任よ。この名前を使って、貴方や他の物に何をされても、それは私の責任よ」
だって不公平でしょ。
私は主というのに、貴方に特別大きな想いを持っていて、それを自覚していて、貴方に今の私の名前を呼んで欲しいと思っている。
たった一度でいいから、それだけで報われるような気がしている。
真名を貴方だけに教えるのは、思いだけじゃないモノまで差をつけているような気がして。
国広の瞳が揺れる。
「国広、私は鶴丸国永に会いたいの。どうしても、会いたいの」
「え…」
「だから審神者になったわ」
そうかと言ったわね。
追求も言及もせずに。
「名前を教えたのは、けじめなの。私はもう人だから」
「どういう意味だ」
「鶴丸国永にあった時に、後ろめたい私でいたくないから。もし私が、取り返しのつかないようなことをしそうになったら、貴方が止めて」
「…」
「私が嫌と思うなら、初期刀であることを降りてもいい。私でもいいと言ってくれるなら、私のお願いを聞いて欲しい」
国広は優しい刀ね。
私がいうと、意志の強い目をしながら言ったわ。
「あんたが俺を選んだんだろう」
…って。
その言葉に全部が込められている気がして。
私がただそばにあったものを取ったにすぎなくても、国広にとっては、確かにそれは私が選んだってことで。
あぁ、なんて優しいんだろうって。
「異論はない」
「国広」
「だが、真名をそう易々と教えるのは、感心しないな。どんな事情があるにせよだ」
「…わかったわ」
「それ以外のもので、答えていけばいいんだ」
「うん」
国広がフードを目深に下ろす。
それが合図だった。
「国広、改めてよろしく頼むわね」
「あぁ」
…でも、国広はしばらく私を主と呼ばなかったわ。
それになんの意味があるのか、追求も言及もしなかったのは正直、国広の真似よ。
国広が何も聞かなかったから、私もそうしたの。
まぁ単に、私を主だとこの時点で認めていなかったのかもしれないけれど。
応接間を出ると、私の本丸になる場所へと案内されたわ。
…運命って、あるのね。