第5章 ご
会えない会えないと毎日思っているから、言霊になったのかしら?
卒業式の挨拶を聞き流しながら、考えるのはやっぱり貴方のこと。
暇があればいつも考えるの。
暇がなくても考えてしまうわ。
卒業証書はクラスの代表が受け取って、リハーサルの通りに退場になる。
この式において私は自分の名前が呼ばれた時に返事をすればいいだけで、特に学友とも積極的に関わろうともしなかったから、感動もなしに終わったわ。
でも、それって少し寂しいわね。
独りが嫌と謳いながら、自らひとりになりに行ってるんですもの、矛盾ね。
12年もこの場所にいるなら、1人くらい心を預けてもいいと思える相手に出会えたかもしれないのに。
遠巻きに私にむく視線に耐えられなかったのよ。
話しかけにも行けなかったわ、逃げられてしまうから。
先程のように、一方的な告白を受けることはあってもね。
高飛車かしら?
傲慢かしら?
態度が鼻につくのかしら?
考えてもわからないわ。
式を終えて友人や後輩、家族と写真を撮る同学年の子たちを横目に、私は1番に門を通り抜けたわ。
…通り抜けた先に純白の高級車が一台。
窓が開いて、車の主は私に声をかけるの。
私はその姿を見て、感極まって泣いてしまうわ。
貴方はその車から降りて、私をエスコートするの。
卒業おめでとうと言いながら。
真っ白な薔薇の花束を持ってね。
そんな素敵なプレゼントを受け取った私は、後でこっそり本数を確認するの。
私はそれに答えられるように努めるわ。
…なーんて。
ある訳もなく、私はタクシーを拾って指定された場所に向かう。
ある意味待ち合わせね。
約束のない、待ち合わせ。
貴方のことは、貴方の口からじゃなく授業で習ったわ。
予習も復習も全部バッチリ、何もかも暗記した。
貴方のことならソラで言えるわ。
自分でも引くくらいにね。
…でも、それだけ。
教科書に載っていること、文献に載っていること、当たり前だけどそれしかわからない。
タクシーの料金は五千円札で支払って、お釣りをもらったわ。
経費で落ちるらしいわ。領収書も忘れずもらっておかないと。
こんな話し方をしているので、意外と思うかもしれないけれど、こう言うとこちゃんとするようにしているのよ。
だって…。