第17章 ■思春期の装飾
「ジェマ、重ね着を見てほしい」
ある朝、テントにやってきたハンターに言われてジェマは眠気が吹き飛ぶほど驚いた。ハンターの装備といえば狩り場と討伐対象に合わせた効率重視のもので見た目など全く気にする様子がなかった。
「いいけど、何かあった?」
例えば新しく入ってきた調査隊の誰かに何か言われたならジェマは黙っているつもりはない。しかしハンターが他人の言葉を気に病むだろうか。こんな風に言葉を探して考え込むだろうか。もしやとジェマは内心期待する。
「……ナタが」
来た!と早々とガッツポーズしかけて押し留める。師弟がなんとももどかしい関係なのは調査隊の初期メンバー皆が知るところであるが見守ろうと取り決めてある。
「その……ノノが新しい服を着ているのを綺麗だと……」
「あー」
少し前まではハンターの新装備を見ては「カッコいいです!」「強そうです!」と絶賛していたナタだが、よく考えなくても妙齢に女性に贈る言葉ではない。誇らしげにしていたハンターもハンターだが。
しかしその心境に変化が訪れたのは大きな前進だ。
「いいじゃん、ハンターも美人なんだし重ね着してナタを喜ばせよう!」
「自分が着飾って喜ぶだろうか……」
珍しく不安そうなハンターの背中をジェマは大丈夫だってと叩く。何しろナタはハンターに惚れているのだ。喜ばないはずがない。内心では。
問題はナタが絶賛思春期に突入しており、素直にハンターに好意を示せず、それとなく距離を取るようになったことだ。
「他の弟子を取るかも」
とジェマが軽いジャブを打ったせいか師弟としては近くにいて若いハンターを威嚇するが先生先生と後ろを追いかけることはなくなった。
十代半ばの男子の成長としては順当ではあるものの、一歩踏み出したハンターに逆に反発するようであれば進展が難しくなってしまう。
これは対策が必要だとジェマはハンターをきせかえ人形にしながら計画を立てた。