第14章 ■少年期の奔走
「失礼します」
一応断りを入れてテントに入る。狩りに必要な物しかないハンターのテントの中央にハンモックが下がっていて、そこに彼女は寝ていた。
装備のない頭がゆっくりとこちらに向けられる。薄暗い中でも顔が赤く表情が虚ろなのがわかった。
なた、と乾いた唇が動くので「はい」とこちらは声に出して応えた。
「エリックに聞いたかもしれないけど、僕が看病します」
ハンターの美しい眉間に皺が寄る。ナタに対する不快感ではない。エリックの言っていた頭痛の波が来たのだ。呻き声と頭を押さえる手にナタは慌てて革袋をハンターの口に寄せた。
「水を飲むといいそうです。 お水飲めますか?」
いつもなら受け取って、流れるようにナタの頭を撫でて、自分で飲むのに腕を動かすのも億劫なのかハンターは首を伸ばして口をつけた。
わあ、と声を漏らしつつもなんとか腕を伸ばして零れないようにハンターに水を与える。
必然的に濡れる唇と嚥下する喉を見る羽目になる。ナタは全身が熱くなるのを自覚した。
(これは看病これは看病これは看病……!)
アルマやジェマには感じない、湧き上がるような熱い感情の正体にうっすら気づいてはいる。けれどもそれを自覚したところで今の自分ではまともに相手をしてもらえないこともまた理解していた。
自発的に飲むのを止めたところで口を拭いてやり、額から落ちた布を回収する。すっかり温くなったそれを冷たい水に浸し絞った物と交換し額の汗を拭う。
「食事や欲しいものがあったら言ってくださいね」
「……ナタ」
「はい?」
呼ばれたと思って返事をするもののその後の要求がない。もう一度名前を呼ばれてどうしましたかと尋ねる。少しの間があって
「なたがいればそれでいい」
どろりとチーズの溶けたような声で言われてナタは身震いした。
(これは何!?)
初めての誘惑にナタは混乱する。ハンターが狙ってやっているわけではないことが幸いだった。伸ばされた手がぱたりと落ちて呻き声に変わる。