第12章 ■青年期の始まり
「ナタ、比翼鳥というのは目と翼が一つずつしかない雌雄一体で生きる鳥のことで……つまり、その……自分の里では生涯のパートナーのことだ」
それは予想通りなので首肯する。それだけではないけれど、僕が強くなった理由の一つは先生の隣にいるためだ。実際にハンターとしてそう評価されている自負もある。
しかし難しい顔をした先生はまだ落ち着かない様子で何か言いたそうにしている。僕としては許可の一言だけでいいのだけれども。
「ナタ」
「はい」
「あー……君がいなくては生きていけない」
「えっ」
「そういう意味だ」
ぽろり、と僕の目から涙が落ちたのを見て先生は慌てた。
「いや、そういう比喩であって自分は君に無理強いは――」
「違います」
強く否定して涙を拭うけれど新たな一粒が生まれて落ちていく。でも本当に嫌なのではない。
「嬉しいんです。 先生にとって僕がそれだけの価値があるって思ってもらえるのが」
守人として生まれて、その役目を果たして、ハンターを知って、今度はそれを目指して。
「ハンターだけじゃない、ナタには東の国と西の国を繋ぐ役目がある。 自分は……ハンターしかできない」
「でも僕には先生が必要です!」
「君に会う以前はハンターをやることしか考えていなかった。 君が自分の弟子になって、ハンターができなくなったら後進を育てるのもいいと思った。 でも君を……手放すのは嫌だと、隣でお茶を飲んだり、食事をしたり、今日あったことや互いの里の話をして……以前君がそうしてくれたように、私がナタの帰る場所になりたい、と」
知らなかった。先生がそんな風に考えていただなんて。僕のことを、僕たちの未来を。
「だが、これは自分のワガママで、君には私よりもたくさんの未来がある。 私に君を縛り付ける権利はない」
「あります! だって僕も先生が、さんが好きだから! 僕もあなたがいないと生きていけないから! 僕もあなたと飛ぶ鳥になりたい!」
もう一度手を掴んで訴える。涙なんか勝手に流しておけばいい。今こそ僕の積年の想いを全て伝える時なのだから。
「もう一度言います。 僕の比翼鳥になってください」
「……はい」
同じように涙を浮かべ、それでも嬉しそうに頷くさんを僕はひとつになるくらい強く抱き締めた。