第12章 ■青年期の始まり
「……僕の勝ちです」
荒い呼吸で先生を見下ろして僕は宣言する。先生は驚いた顔で僕と空を見上げていたけれどすぐに真顔に戻って拍手をした。
「凄い……完敗だ、ナタ」
正直先生に勝つためだけの一回だけの戦法だったので、上手く決まって良かった。そもそも先生の攻撃が鋭くて技を入れるのも大変だった。よしんば仕掛けられたとしても先生に回避される可能性も高かった。これは運も味方した一勝だ。
でも手加減されたわけでもない。僕は本気の先生と戦って勝てた。それは事実だ。
「これで先生と生徒も卒業か」
僕の手を受け入れて立ち上がった先生が感慨深そうに言う。確かに僕はその関係から一歩踏み出すために、それ以外の目標もあるけれども、鍛練してきたのだ。
「……さん」
上擦った声、激しく動く心臓を隠して名前を呼ぶ。掴んでいた手の力を少しだけ強めて、いつの間にか少し低い場所にあるようになった先生の瞳を見つめる。
「僕の願いも聞いてくれますか?」
「自分にできることなら」
むしろあなたにしかできないことなんです。
本気で何でも受け入れる、僕を信頼してくれている人に僕も愛情を注ぎたい。
「好きです。 ずっと前からあなたを愛しています。 僕をあなたの比翼鳥にしてください」
先生は驚くと予想していたが、それよりも赤面する方が先だった。
「どこでそれを……いや、自分がもらしたのか」
覚えていないけれどそれしかないと判断したようだ。実際にそうだし僕は黙って返事を待つ。