第1章 ■少年期の始まり
「すまない……ナタが楽しい話題がわからない」
ある夜、夕食というか宴会の中でたまたま二人きりになった時にすごく困った顔で言われて、僕はなんでもいいですよとこたえた。
「なんでも……」
「ええと、お酒はおいしいですか?」
「自分はあまり酔わないけれども、味は好きだ……ナタはお酒に興味がある?」
「少し……みんな楽しそうなので」
先生も周囲を見てうなずく。
「ナタが大人になったら一緒に飲みたい」
「はい!」
それから僕は少しずつ積極的に先生に話しかけるようになった。先生は短くても必ずこたえてくれるし、話しやすくなったって他の隊の人に褒められた。
褒められたのは嬉しかったけど、先生に話しかける人が増えたのは、なんだか、もやもやした。
先生は強くて近寄りがたいけれどアルマやジェマに負けないくらい美人で魅力的だってロッソさんも言ってた。
それは間違いないんだけど。
「なんだ、ヤキモチか」
頭をグシャグシャに撫でられて、先生はこんな風にはしない、僕はこれがヤキモチだってわかった。
僕はいつの間にかすごいワガママになっていたみたいだ。里を助けてもらって、あいつをどうにかしてもらうだけで十分してもらったのに。
恥ずかしくて隠れて泣いていたらいつの間にか先生が近くに座り込んでいた。
「ナタ、どこか痛い?」
「せんせぃ……ぼくは、ワガママな自分がはずかしいです……!」
僕の自白に先生はしばらく黙って、やっぱり困った顔をした。
「そのワガママは自分には叶えられない?」
先生にしか叶えられません。僕は先生とずっと一緒にいたいんです。僕は先生の一番になりたいんです。
「……僕は、自分で、叶えたいです……!」
僕が涙を拭いて決意を伝えると先生は嬉しそうに頷いて応援すると言ってくれた。