
第10章 ■思春期の運命

先生が珍しく酔っている。普段も少しは酔うらしいけど、僕から見る分には何も変わっていなかった先生が今日は僕の隣で全体的に赤くなってぼーっとしている。
「先生、大丈夫ですか?」
今日は強くて美味しいのが手に入ったって誰かが言っていたから、そうなんだろう。この後に何かあるわけではないけれど、無防備な先生を見ていると心配になる。装備も軽装だし、先生は人気があるし、モンスターと戦う時は容赦ないけど人には優しいから。
「大丈夫、軽い酩酊状態。吐き気等はない」
口調はしっかりしているし、冷静に状況を報告してくれる。すごく撫でられているけど。みんなも見ているし、誰も気にしてないけど、あんまり子ども扱いされるのは恥ずかしい。まだまだ半人前だけど、少しは成長できたと思うのに。お酒が飲めたらいいのかな。
「ナタは優しくていい子だ……かわいい」
「もうかわいいって年じゃない」
背も追いつきそうだし声も低くなってきた。夜にうなされて心配をかけることもない。
僕だって男だから頼れるかっこいいナタって思われたい。
でも先生はニコニコ嬉しそうに僕の頭を撫で、両頬を手の平で挟んだ。
『ふふ……愛し子……私の宝物』
先生は珍しく西の国の言葉で喋っている。もちろん僕は聞き取れるし、別に僕に聞かれたくないことを言っているわけではないようだ。
『見つかると思ってなかったけど……私の✕✕✕がナタで良かった』
聞き取れない、のではなく知らない言葉だ。
「✕✕✕って何?」
アルマに尋ねても肩をすくめ首を振る。一般的な風習ではなくて、先生の里の掟なのかもしれない。
『連れて帰ったらみんな何て言うかな……』
先生は半分夢を見ているみたいで幸せそうに僕を抱き締めている。絶対僕も赤くなっていて、叫びだして逃げたい気持ちだけど、もしそれで先生が他の誰かに抱きついたら嫌なのでぐっと耐える。耐久戦の訓練もした。肩から腕辺りに柔らかいのが当たっていて段々前屈みになってしまう。
ジェマとか助けてくれないかな……絶対おもしろがって見てるよね……。
「ナタ、お腹痛い?」
「ううん……食べ過ぎただけなので、テントに戻りませんか?」
拝命したと頷いた先生はひょいと僕を抱き上げて歩きだした。足取りはしっかりしていて不安はないけど、当たらないようにしないと……というか早くおさまって。
幸いにも先生には気づかれずに僕はテントに戻ることができた。
