第2章 あの人
『そうか。私もこのあとは予定がない。少し話そうか』
なんとなく“luna”さんに言われるまま、近くにあったカフェでお茶をすることになった。
いつか会えたら、とかいつか話せたら、とか思ってはいたけど
こんなに早いなんて…
“luna”さんの行動力に驚かされながら改めて目の前の人を見る。
先ほどテレビ局にいたのは収録か何かだろうか。
動きやすそうな、でも“luna”さんらしい格好をしている。
アイドルとは違うので多分今着ているのが、練習着兼普段着なのだろう。
ここに来るまでの間、そんなに長くはないはずなのにかなりエスコートされていた。
俺の速さに合わせて歩いているかと思えば
少しスピードを上げて先にエレベーターや出入り口のドアを開けていてくれたり、
俺が先に店内に入れば店員さんが近づいてきて「何名様ですか」と聞かれ
俺が答えるより先に『二人です』と後ろから“luna”さんの声が聞こえ
店員さんに「お好きな席へどうぞー」と言われれば自然な動作で席まで促されたり、
メニューも丁寧に俺向きに渡してくれたり、
『ここは私の奢りだ。食べたいものがあるなら遠慮なく食べるといい』
と言ってくれたり。
しっかりご飯を食べる時間でもなく、かと言ってここに俺の好きな辛いものがあるわけもないのでドリンクだけにしたが。
“luna”さんは紅茶のみを頼み、優雅な動作でカップを口に運ぶ。
『私のことをじっと見つめてどうした?』
「すみません、不躾でしたね」
『…ゆうたは何故そんなに謝る?』
「え?」
『口を開くたびにすみませんと口にしている気がするぞ。些細なことで私は気を立てたりしないから、そんなに謝る必要はない』
「そんなに口に出してましたかね、すみません」
『ほれ、また言った。まだ緊張しているか?』
「それもあるかもしれませんが、普段はアニキのお守りみたいなことしてるからかもしれません」
『同い年のお守りとは面白い。だがここにその兄はいないのだから謝るのは禁止だ』
第一、謝られるようなことを君はしてないからな、とウインクをする。
どことなく芝居掛かった口調と動作のせいで未だ夢という可能性を捨てきれない。