第13章 苦いクスリ
不安に駆られながらもどうしたものか…それだけが悟浄の頭をめぐりまわっていた。
「…理世?」
そう名前を呼ぶにももう意識はどこかに行ってしまったのだろう。反応は一切なく、つないだ手もするりと離れるほどに力が入っていない。
「…あっちぃな…」
額のタオルを取り、洗面所で濡らして再度置きなおす。ひやりとした感覚に一瞬小さく声が漏れるものの、それでも起きる事はなかった。
「…明日の出発、伸びんのか…?」
そんな風に考えていた。
***
一方の三蔵はといえば、悟浄に鍵を預けたその足で八戒の部屋に向かっていた。
「…三蔵、どうかしましたか?」
「明日の出発、延期する」
「…はい?突然どうしたんですか?」
「熱出したやつがいるのにこのままじゃ出れねぇだろ」
「…熱…って…まさか…理世ですか?」
「あぁ。」
「それ、どうして」
「フロントで部屋の鍵開けてもらった。」
「…それで中に入って確認したというわけですか…」
「あぁ。心配しなくても理世の所にはあのバカがいるから大丈夫だろう。」
「…バカって…悟浄、ですか?」
「他に誰がいる」
「……しかし」
「薬も置いてあるから大丈夫だろう。あいつもさすがに熱出てるやつ抱くことはねぇだろうからな」
「…それはそうでしょうけど…」
『それだけだ』と言い残して三蔵もまた自室に戻っていくのだった。
「…全く、僕でも多少は回復させられると思うのですが…」
そう呟きながらも八戒は小さくため息を吐いてすっと部屋を出る。
コンコン…
「…んぁ?」
理世の部屋にいる悟浄は訪問者に向かっていく。
「…八戒か」
「失礼します。」
「おいおい、理世熱『知ってます』……そ?」
「三蔵に聞きましたから」
「あー、なーる」
「少しだけ回復させていきますから…」
「…おー、サンキュ」
「あなたのためじゃないですよ」
「…わーってるって…」