第10章 呼び出された理由
はぁぁ…っと大きすぎるため息を吐けば三蔵は少しばかり頭を抱える。
「…あのなぁ、その意味分かってんのか?理世」
「解ってるつもり」
「つもりだと、お前が泣くことになるぞ」
「泣く事はないと思う」
「…言い切れんのか?」
「ん、たぶん」
「……・・・泣く未来しか見えねぇけどな?」
「なんで?」
「あいつは繁殖能力がねぇ。」
「聞いてる。」
「…だからと言ってもセフレってことは恋人ではねぇってことだ。あいつの遊びの駒に成り下がるつもりか?」
「成り下がるって…駒じゃない」
「駒だろうが。そこらの女よりも少しだけ近いってだけだろう?」
「…心配、してくれてるの?」
「ふざけんなよ、このアマ…」
「…言い方…」
「忠告だけしておく。」
そこまで言えば、三蔵はするっと立ち上がり、理世の目の前まで歩いて来る。ぴたりといい距離で止まれば上から見下ろす形で話を始めた。
「…あのバカとの事で泣いたって、俺は知らねぇよ?」
「…・・ん」
「助けてくれって言っても助けねぇぞ?」
「ん…・・」
「好き、なのか?」
「へ?」
「理世はあのバカの事、好きなのかって聞いてんだよ」
「…好き…なのかな…悟浄のキスは好き、だけど…」
「聞いた俺がバカだった」
くしゃりと理世の頭をそっと撫でれば『わかった』と言い残す。そんな三蔵に理世はふとした疑問を投げかけた。
「そういえば…三蔵はなんでわかったの?」
「ぁあ?」
「だって…八戒だってここまでじゃなかった。疑問符はあったみたいだけど…」
「八戒も気づいてるだろうよ。」
「へ?!」
「お前に似つかわしくもねぇ煙草の匂いが付いてりゃ、気づかねぇのは悟空だけだろ」
「…そう、なもの?」
「ニブ過ぎんだよ、危機感もて、知ってるか?危機感」
「知ってるよ!」
むぅっと唇を尖らせれば三蔵は背中を向け、窓際に移れば煙草に火を点ける。
「知ってるならいいがな」
「…三蔵…?」
「…・・なんだ」
「ありがとう」
「ぁあ?」
「いろいろと…ありがとう」
「フン…」
すぅーっと白煙を噴き上げる三蔵に、またねと手を振り、理世は部屋から出ていった。部屋に残った三蔵は夜空を見上げながらもまた一息吸い込む。
「かけたカマが当たるとはな…」
そう呟く声は月夜に飲み込まれていくのだった。