第9章 疑問と約束
「…つぅかよ?俺的にはこっちのがいいんだけど?」
「なんで?」
そう、悟浄が指さしたのは自身の左胸だった。
「…なんで??」
「よぉっく考えてみ?」
「考えてって…」
必死に考えている理世の左胸に手が伸びる。
「こっちだとお揃い、だろ?」
「…そういう事…言わないでよ」
「クス…なんでよ」
「…タラシ」
「はぁ?」
「エロ河童…タラシ河童…」
「おま…ッ!理世こそどの口が言ってんだっつぅの」
「このかわいいお口ですけ…ン…」
最後まで言い終わる前に腰を抱いて引き寄せられた理世の唇は悟浄のそれでふさがれた。水位ほど低いものの、熱気と響く浴室でクラリとするほどの甘いキスだった。
「エロ…」
「ごじょ…?」
「ん?」
「…もっと…シて?」
「クス…ほんっと俺とのキス好きだねぇ…」
その『好き』はさっき聞いたものよりもはるかに甘く、優しく響くのだった。
***
それから少しして二人はようやく浴室から上がる。着替えをして時計を見れば十八時を指そうかという時だった。
「…やば…」
「どうかしたか?」
「ごはんとか…皆行っちゃったよね…」
「ん、かもな」
「食べそこねた?」
「かもしれねぇなぁ…でも、なんなら一旦あいつらの部屋、行ってみる?」
「それもそうか…!」
そうして二人は八戒のもとに向かっていく。『そろそろ呼びに行こうとしていました』と言われてほっと一安心した理世を見て『よかったな』とくしゃくしゃと頭をなでる悟浄。
「にしてもお二人で珍しい」
「ほら、ちょうど少し前に悟浄にたばこ渡しに行ったのよ」
「あぁ、あれですか」
「ん買ったやつ」
「にしても、災難でしたね、理世」
「なんで?」
「香水かなんかでプンプンしてたんじゃないですか?」
「誰が?」
「悟浄が、です」
「なんで?」
「…・・まぁ、違うならいいんですが?」
「意味深すぎるだろ、お前」
「自覚なし、ってことですね?」
「ぁあ?」
「…(首元、せめて隠してください?)」
そう伝えられる悟浄。ふっと笑えばこれか…と笑い隠したのだった。