第30章 花贈~hana okuri~
「巫女様、お待たせいたしました。準備が出来ましたのでこちらへ」
そういわれてゆっくりと立ち上がる。手を引かれて表に出ればそこには花車にすでに乗り込んだ三蔵が外を見ていた。
「…三蔵法師様。巫女様をお連れしました。」
そういわれれば三蔵も理世に視線を向けた。
「お綺麗でしょう?」
「…あぁ」
ゆっくりと理世のタイミングで乗り込む手伝いをすれば座ったのを確認して声を掛け合っているのが遠くで聞こえる。
「…馬子にも衣装」
「さすがに失礼じゃない?」
「クス…あのバカが見たら卒倒するな」
「…言わないで…」
「…悪くはねぇよ」
その一言を残せば『上がります』と声をかけられる。予想以上の高さだったものの、不思議と理世は怖くなかった。
「…あの…三蔵?」
「なんだ」
「…今夜の事…私…さっき聞いて…」
「ぁあ?」
「…三蔵は聞いた?」
「聞いてねぇよ」
「……そっか…」
「で?」
「……あの…夜伽って聞いて」
「…ハァ…マジか」
「ん…」
「何とかなるだろ」
「でも…見届け人って人が二人いるって…」
それを聞いた三蔵はふと沈黙に変わる。
「…三蔵…?夜伽って解る?」
「知らねぇ訳ねえだろうが。頭まで腐ったか」
「腐ってません…」
「たく…」
しかしそこからは言葉数が一気に減った。外を見つめる二人。長い時間をかけて階段を降り、街中に入っていく。そこでも急ぐことはなく、ただただゆっくりと進んでいく。
「花車見れて…幸せだわね…」
「本当に!!!」
「三蔵法師様!」
「三蔵法師様ぁ!!」
「巫女様!」
「ありがとうございます!」
そんな喝采に包まれながら人々は惜しげもなくきれいな色とりどりの花びらを撒いていく。