第29章 ハジメテの感覚
「ねぇ…?なんで教えてくれなかったの?」
「んぁ?」
「誕生日」
「なんでって言われっと困るんだけどよ?」
「なんで?」
「いう必要がなかったっつぅか…」
「必要って…悟浄が生まれてきた日でしょ?」
「ガキの頃はよ?なんつうか、『いらねぇ子』だったからよ」
そう言われて理世はドクン…っと胸が高鳴るのと同時につぅっと冷や汗にも似た冷たさを感じた。
「…そうだったんだ…」
「でも、まぁ?こうして祝ってくれるのは嬉しいんだけどな?」
「なら、いいんだけど…」
「しかも?」
そう言いかけて悟浄は前に回る理世の手にそっと自身の手を重ねた。
「祝ってくれる相手が理世だからよ」
「他の皆ともお祝いできたらいいんだけど」
「あいつらが祝うかぁ?」
クスクスと笑い合う二人。そっと手を放せば理世は前に回りこんで、悟浄の前にすっと正座をして見上げた。
「どうした?」
「えと、何も用意をしていなくてですね?」
「だろうな」
「何かしてほしい事とかある?マッサージとかでもいいし…」
「なんでもいいワケ?」
「ん!私に出来る事なら」
「…・・・いったな?」
「え?」
「二言はねぇな?」
「ない!!」
きっぱりと言い切った理世。それを聞いて悟浄の瞳がほんの少しだけ、揺れていた。
「何?」
「んー?なんでもねぇ」
しかしなんてことも無いままに昼食、買い出しも終えた。