第26章 看病への逃避
「ま、どちらにしても、です。些細なことで喧嘩が出来るならそれはとてもいいことですね」
「いい事じゃ、ない気がするんだけど…」
「どうしてですか?いい事ですよ?」
「だって…喧嘩だよ?」
「はい」
「……喧嘩のない恋人とかが一番いいに決まってるじゃないの…?」
「どうしてそう思うんですか?」
「どうしてって…」
『それは当然の事でしょう?』
そう理世は言いたくなっていた言葉をなぜか飲み込んだ。どうしてだろうと思いつつもなぜだか八戒の言葉が心に引っかかる。
「…あのね…?八戒…」
「はい?」
「なんで、喧嘩できるのがいいの?」
「…クス…だって本音が言い合えると言う事でしょう?」
「…へ?」
「そうでなければいけませんよ。まぁ、僕的にも喧嘩しないで済むのならそれが一番かもしれないと思いますが、それでも価値観の違う相手同士であればなおさら、元が違うんですから…喧嘩してなんぼ、ですよ。」
「……そういうもの…か」
「考えてみてください?」
「何を…?」
「おそらくなんですけど、僕や三蔵とはきっと理世は喧嘩しないと思うんです。」
「…え?」
「価値観は違いますけれど、それぞれの根本は同じな気がしますから。」
「それって人間か妖怪かって事?」
「それは全く無関係ですよ。」
「……もぉ…わかんない…」
「…まぁ、そのうちなんとなくでも解ると思いますよ?」
意味深げに八戒は笑いかける。それに対して考え込んでしまうかの様に理世はうつむいてしまった。
「…さぁ?こうしている間にでも悟浄と話し合ったらどうです?」
「…バカって言っちゃったし…」
「それはそれは…」
ははっと笑い飛ばす様にしたまま八戒はふぅ…っと一息ついた。
「…大丈夫ですよ、きっと」
「きっと…?」
「はい、きっと…」
その言葉を聞いて理世は八戒の部屋をようやく後にしたのだった。