第3章 恋の温度
理世も部屋に入ればきれいに整えられたベッドが二台ある。どちらがいい?などと聞くこともないままにぼすっとベッドに腰を下ろす。
「ハァ……」
大きすぎるため息はこちらの世界線に入ってからは珍しいことだった。ごろりと寝転んでコチ、カチ…となる時計の音に耳を傾けることさえもなんだか特別な時間に思えてしまう。
空腹になれば好きな時間に食べることもできるし、うとっとしても何も問題はない。ただ問題があるとすれば、八戒に『大丈夫か』『薬は飲んだか』と聞かれるくらいだった。
「…子供じゃないのに…」
そういうのも仕方のないことだった。五人の中で理世が一番年上なのだった。
「…ハァ…どうしよっかな…」
買い物に行くにしても、どうしたらいいのかわからない。八戒と一緒に買い出しをしに行くもよし…しかし、誘っていいのかすら行動が戸惑われた。
「誰かに八戒の事好きなのかって思われたらなぁ…」
そう思ってしまうのも現代においてその気が多い世界だったのだ。気になっても仕方ないものの、『って、誰によ』なんて自分自身に突っ込んでしまう余裕すら少しだけ出てきていた。
***
そして気付けば時刻も夕方。
コンコン…
「え、はい?」
突然の訪問者に理世は扉を開けた。
「よかった、起きてらっしゃったんですね、あの、そろそろ悟空が空腹を訴えていまして…」
「ごはん、ですか?」
「はい、行きましょう?」
「…三蔵やその悟空は?」
「先に入り口に行ってます」
「遅くなってすみません、すぐ支度します!」
そう返事をしたものの、身支度など済んでいる。髪をささっと梳かせば八戒と一緒に宿を後にした。