第9章 scene8…夢
「雅の前でその名前、出すなよ」
「……それは…もちろん……」
「にしても、夢に見始めたか…」
「観世音菩薩、そんな呑気な…」
「ハハ、顔も解らねぇ、名前も解らねぇ、じゃ、雅自身も探しようがねぇと思うだろうしな」
「あの好奇心旺盛な雅が、ですか?」
「そうなったらオレが相手になる」
「菩薩!あなたって人は…」
「んぁ?なんだ?」
「いえ…それでも…」
「ん?なんだ」
「あなたが良かれと思ったのなら、それが正しいんですよ。恐らく。」
「天帝に背いても、か?」
「えぇ。私はそれがあなたらしいと思いますが?」
「…クス、相変わらずだな。二郎神」
そうこう話していると雅は戻ってくる。
「遅くなってごめんなさい…」
「いや、良いさ。さて、と……二郎神がうまい茶でも淹れてくれるってよ!」
「ありがとう!二郎神!!でもそれなら私淹れるよ!」
「いや、そういう訳では……」
「ご老体は労らないと…」
「そんな老いぼれではないわ!」
「クスクス…冗談だよ、でも私淹れてくるよ!待ってて!」
そうして奥へと行った。
「あの天真爛漫…最後に言いたいこと言えずに…嘘まで吐かせて…消せねぇだろうが…」
「どんなことでも必要なら手を下してきたあなたがそんなことを言うとは…」
「……うるせぇよ」
そう話ながら雅の淹れるお茶を待つのだった。